カイガラムシは、植物の分布するほぼ全ての地域に特有の種類が分布する、果樹や庭木の重要な害虫となる昆虫です。
一口にカイガラムシと言っても形態や生態は様々で、非常に多くの種が日本にも分布しています。
東京農業大学河合省三教授による「日本原色カイガラムシ図鑑」には、およそ400種のカイガラムシが記載されていますが、実際にはその倍近くの種が存在すると推察されています。
ここでは、日本で多く見られるカイガラムシの種類と生態、被害や駆除・予防方法などについて紹介しています。
目次
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カイガラムシの生態
カイガラムシとは、カメムシ目ヨコバイ亜目腹吻群カイガラムシ上科に分類される昆虫の総称です。
分布の中心は熱帯・亜熱帯地域ですが、地球上で植物が分布するほぼすべての地域で特有の種が生息していると言われています。
カイガラムシの生態
カイガラムシは、糸のように細い口吻を植物の幹や茎などに差し込んで、養分を吸汁しながら生活しています。
多くの種は移動せずその場で養分を継続摂取しているため、足が退化する傾向にあります。
※生涯を通じて移動できる種もいます。
カイガラムシというと堅い殻を背負った虫をイメージしますが、植物に固着して生活しているのは雌成虫で、雄はサナギになって変態し、一対の羽を持った成虫になります。
雄成虫の口は退化しおり、寿命は数時間から数日で、交尾を終えるとその生涯を閉じます。
※カイガラムシの中には雄の見つかっていない種も多くあり、これらの種は雌だけによる単為生殖によって繁殖しているとされています。
交尾を終えた雌は産卵しますが、卵は綿につつまれたような形状のもの、殻の下に産卵するもの、雌成虫の体内で成長し生まれると同時に羽化するものなど様々です。
幼虫は1㎜前後と小さく、注意していてもなかなか目にすることはありません。
カイガラムシのカラ
多くのカイガラムシが背負っているカラのようなものは、虫体被覆物と呼ばれます。
虫体被覆物の主成分は余った養分と排泄物で、ロウ質の分泌物となりカイガラムシの体表から分泌されています。
カラを被っていないように見えるカイガラムシもいますが、その体の表面はロウ質の分泌物で薄くコーティングされています。
カイガラムシの種類
非常に多くの種が存在するカイガラムシですが、雌成虫の形態・生態によって大きくいくつかの科に分類されています。
ここでは比較的よく目にするカイガラムシの種類について紹介しています。
カタカイガラムシ科のカイガラムシ
体が厚いロウ物質で覆われているカイガラムシのグループです。
多様な形態の種が分類されています。
ルビーロウカイガラムシ Ceroplastes rubens
- 体長…4~5㎜
- 分布…本州、四国、九州、沖縄
- 寄生植物…カンキツ類、ツバキ類、ゲッケイジュ、モッコク、チャ、カキ、ヒサカキなど多食性
インド原産と考えられる外来種で、世界に広がっています。
ロウ物質は赤褐色~赤紫色で、半球状に盛り上がった縁が帽子のひさしのような形になります。
白い模様は気門につながっている溝に、白い粉状のロウ物質が充填されたもので、呼吸に必要な空気はこの部分から取り込まれていると考えられています。
雄成虫はほとんど見られることはなく、単為生殖で増えます。
卵は腹面に産卵され、産卵後母虫は死に、卵が詰まったロウ物質のドームが残ります。
幼虫は5月下旬~7月上旬に孵化します。
▼ルビーロウカイガラムシの幼虫
幼虫は歩行、または風などで飛散して枝に定着し、ロウ物質の分泌を始めます。
ルビーロウカイガラムシが発生するとほとんどの場合、すす病を誘発します。
ルビーロウムシとも呼ばれます。
ツノロウムシ Ceroplastes ceriferus
- 体長…6~9㎜
- 分布…本州、四国、九州、沖縄
- 寄生植物…カキ、カンキツ類、ツバキ類、マサキ、ヒサカキ、ヤナギ類、チャ、ゲッケイジュなど多食性
ロウ物質は灰白色で、未成熟の時には周囲に8つの突起がありますが、成熟と共に丸みを帯びます。
雄は見られず、単為生殖で増えます。
卵は腹面に産卵され、産卵後母虫は死にます。
産卵数は多い場合、2000個以上になります。
幼虫は5月下旬~7月上旬に孵化し、歩行、あるいは風で飛散し、一日以内に定着します。
タマカタカイガラムシ Eulecanium kunoense
- 体長…4~5㎜
- 分布…北海道、本州、四国、九州
- 寄生植物…バラ科
ウメ、サクラ、スモモ、アンズ、リンゴ、カイドウ、ナシなど
ロウ物質はあずき色でほぼ球形です。
雄幼虫は3月頃に白いワックスを分泌して中で蛹になり、3月~4月に羽化します。
交尾を終えると雄は死に、雌は腹面に産卵します。
幼虫は5月~6月頃に孵化します。
※気温や気象条件によって変化します。
天敵 アカホシテントウ
タマカタカイガラムシが大量発生すると天敵のアカホシテントウも発生することが多々あります。
▼アカホシテントウ
▼アカホシテントウの蛹
幼虫の脱皮殻の中で蛹になります。
幼虫、成虫共にタマカタカイガラムシを捕食します。
ヒラタカタカイガラムシ Coccus hesperidum
- 体長…3~4㎜
- 分布…本州、四国、九州、沖縄
- 寄生植物…カンキツ類、ラン類、バラ、ソテツ、ゲッケイジュ、ヤツデ、チャノキなど極めて多食性
ロウ物質は淡い黄色で扁平な形をしており、成熟すると中心に暗褐色の斑紋が現れます。
雄は見られず、単為生殖で増えます。
産卵後はすぐに孵化し、植物に付着します。
ヒモワタカイガラムシ Takahasia japonica
- 体長…3~10㎜
- 分布…本州、四国、九州
- 寄生植物…カエデ類、ヤナギ類、カンキツ類、コブシ、ネムノキ、カキ、クワなど多食性
成熟すると後ろに白いロウ物質に包まれた卵のうを有し、卵のうは6㎝を超えることもあります。
卵のうの先端は木にくっついているため、伸びると輪になり垂れ下がります。
虫の本体は淡黄色~灰黄色をしており、最初は腹面全体で枝などに付着していますが、卵のうが伸びるに従い、後部が外れてぶら下がるような形になります。
雄は体長1.2mm程度と雌よりはるかに小さく細長い形をしており、羽を持ちます。
産卵は5月頃で、幼虫は6月頃に孵化します。
孵化した幼虫は葉裏に寄生し、落葉前に枝先に移動して幼虫で越冬します。
ワタフキカイガラムシ科のカイガラムシ
イセリアカイガラムシ Icerya purchasi
- 体長…5㎜
- 分布…本州、四国、九州、沖縄
- 寄生植物…極めて多食性
カンキツ類、モッコク、ナンテンなどイネ科を除く植物
オーストラリア原産の外来種で、ワタフキカイガラムシとも呼ばれます。
日本には明治40年代に、苗木について侵入したとされています。
体は赤みを帯びた楕円形の部分で、成熟すると後ろに白いロウ物質に包まれた卵のうを有します。
口針を植物に挿して付着していますが、その他の部分はくっ付いている訳ではないので、指で動かすと脚を確認することも出来ます。
羽を有する雄成虫もいますが、ほとんどの場合は雌のみによって繁殖しています。
ミカンなどの柑橘類に壊滅的な被害を与える害虫ですが、現在では天敵であるベダリアテントウの導入によってその数は減少しています。
天敵 ベダリアテントウ
▼ベダリアテントウ
▼ベダリアテントウの蛹
オーストラリア原産のテントウムシの仲間で、幼虫成虫共にイセリアカイガラムシを捕食します。
世界中の柑橘類の栽培地で導入され、蜜柑栽培を救ったと言われるテントウムシです。
コナカイガラムシ科のカイガラムシ
コナカイガラムシの仲間
- 体長…3~5㎜
- 分布…北海道~沖縄
- 寄生植物…様々な樹木、草花
コナカイガラムシの仲間は日本に約71種が知られています。
代表的なのは広食性の数種で、カンキツ類やサクラ類、温室の観葉植物など様々な草木に発生します。
体は楕円形で、白いロウ物質に覆われ、粉を吹いたように見えます。
カイガラムシの中では珍しく、成虫になっても歩行移動します。
葉や果実に寄生して吸汁します。
柑橘類に多く発生し、栽培地では深刻な被害をもたらします。
温室内で栽培されている柑橘類に発生しやすいミカンカイガラムシ、柑橘類に発生するミカンヒメカイガラムシ、アンズやイチョウ、クワなどに発生するクワコナカイガラムシなどがいます。
露地栽培の場合、幼虫の発生は主に6月中旬~下旬、8月中旬~下旬です。
天敵 ツマアカオオヒメテントウ
幼虫はコナカイガラムシに擬態しています。
よく似ていますが、裏返すと頭がはっきりと見えるので区別することが可能です。
ハカマカイガラムシ科のカイガラムシ
最も原始的なカイガラムシのグループと言われています。
やや硬い白い石膏のようなロウ物質で覆われているのが特徴で、カイガラムシの中では非常に立派な脚を持っています。
ただ歩行はあまり得意ではなく、ゆっくりとぎこちなく歩きます。
日本では現在7種の生息が記録されていますが、落葉した葉の下や土中で生活している種もあり、大きな問題となることはありません。
その他のカイガラムシ
カイガラムシの種類は非常に多く、カラを持たない種や、カラの代わりに袋のようなものの中に入っている種もあります。
カイガラムシの分類学的な研究は遅れており、専門家の間でも意見の一致が得られていないものも多々あります。
カイガラムシの症状と被害
カイガラムシは、植物の枝や幹、葉に付着して吸汁して生活しています。
楕円形やお椀型、扁平な円形で一見して昆虫には見えませんが、つぶすと色の付いた体液が出ます。
寄生された植物は生育に必要な養分を奪われるため生育が悪くなったり、数が多い場合は枝枯れを起こしてしまいます。
またカイガラムシそのものが植物の美観を損ねることも問題になります。
その他に大きな問題となるのが、カイガラムシが寄生することで誘発する植物の病気です。
すす病
カイガラムシの排泄物や分泌液には、植物から摂取した余剰な糖分が多量に含まれています。
この糖分を栄養源として、すす病が発生します。
▼カイガラムシの発生ですす病にかかったツバキ
すす病にかかった植物は、枝や幹、葉が黒いすすのようなもので覆われ、大きく美観が損なわれます。
また、すすに覆われた葉は光合成が阻害されるため、生育にも影響を及ぼす病気です。
すす病に対する直接的な対策は無く、原因となる吸汁性害虫を駆除することが唯一の対策となります。
すす病はカイガラムシの他、アブラムシやコナジラミなどの吸汁性害虫の排泄物からも誘発されます。
こうやく病
カイガラムシの一部の種では、こうやく病菌と共生して樹木にこうやく病を引き起こすことが知られています。
こうやく病は、カビの仲間であるこうやく病菌によって引き起こされる樹木の病気です。
発病すると、枝や幹の表面に分厚いフェルトのようなカビが生えます。
色は灰色、茶褐色、黒褐色などで、初期には円状ですがやがて幹を包むように広がり、上下にも増殖していきます。
カビに覆われた枝は美観が損なわれるだけでなく、生育も衰え、枝枯れが目立つようになります。
こうやく病は単独で発生することがありますが、カイガラムシによって媒介されていることが多い病気です。
発病した場合は、病変箇所を取り除き、殺菌癒合剤を塗布しますが、発生原因となっているカイガラムシの防除が大切な対策となります。
カイガラムシの駆除と予防
カイガラムシは成虫になってしまうと分泌するロウ物質に覆われてしまうため、薬剤の効果の薄い害虫です。
特に堅いロウ物質に覆われている種は、薬剤の効果はほとんど期待できません。
幼虫の時期であれば薬剤を散布することによって駆除することが出来ますが、カイガラムシの発生に気付くのは残念ながら、成虫が葉や枝に付着した段階、あるいはすす病を発病した段階です。
カイガラムシの成虫の駆除
基本的な駆除方法は捕殺です。
気持ちの良い作業ではありませんが、薬剤の効きにくい成虫に対しては最も効果的です。
枝や幹に付着しているカイガラムシを、ヘラやブラシを使ってこすり落として下さい。
傷ついたカイガラムシからは体液が出てくるので、手袋を装着して作業を行います。
剪定可能であれば、密に発生している箇所を剪定してしまうのもひとつの方法です。
その後、成虫にも効果が期待できる浸透性のある薬剤を使用して下さい。
ただし堅いカラを持つタイプのカイガラムシには薬剤の効果はほとんど期待できません。
成虫を見つけたらこすり落とす作業を繰り返すことになります。
カイガラムシの幼虫の駆除
幼虫であれば薬剤がよく効きます。
幼虫の発生時期は種によって異なりますが、おおむね5月~7月の時期に一度は産卵し羽化します。
この時期に薬剤を使用することによって、カイガラムシを幼虫の時期に駆除することが出来ます。
5月~7月の間に2~3度、効果のある薬剤を散布します。
カイガラムシの予防
一度カイガラムシが発生すると、ほとんどの場合翌年も発生します。
冬の間に薬剤を使用して翌年の発生を抑制します。
冬季は植物が休眠状態にあるため、比較的強い薬剤を使用することが出来ます。
成虫にも効果が期待できる薬剤を散布します。
冬の時期に何度か散布することで、カイガラムシの発生を予防することが出来ます。
さらに幼虫の発生時期に合わせて殺虫剤を使用します。
カイガラムシの成虫の姿が見えなくなっても、一度発生した樹木に関しては幼虫対策も行っておいたほうが安心です。