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エビネ

  • 学名…Calanthe discolor Lindl.
  • 和名…エビネ(海老根)
  • 科名…ラン科
  • 属名…エビネ属
  • 原産国…日本、朝鮮半島、中国
  • 花色…白、黄色、ピンク、赤、紫、緑、茶など
  • 草丈…30㎝~65㎝
  • 日照…日陰~半日蔭
  • 難易度…星
  • USDA Hardiness Zone:7 to 9

エビネとは

エビネ

エビネは、日本、朝鮮半島、中国に分布するラン科エビネ属の常緑多年草です。
日本では、北海道南西部から九州にかけて分布しており、低山の常緑針葉樹林の林下などに自生しています。
以前は数多くのエビネが日本に分布していましたが、現在は準絶滅危惧種として保護されています。

エビネの野生種は、昭和40年代の東洋ランブームの時代に大量に採集され、また森林伐採などによる自生地の減少によって、急速に個体数を減らしてしまいました。
しかし近年、交配によって生産された株が多数流通することで原種の需要減り、個体数が回復している地域もあるようです。

エビネ属の植物は、日本に約20種、アジア中南部、アフリカ南東部、オーストラリア北東部、オセアニアの島々、中米メキシコなどに約150種が分布しています。
その中でエビネとして栽培される種は、大きく分けると温帯性の春咲きエビネと、熱帯性の夏咲きエビネに分類することが出来ます。

ここではエビネ(Calanthe discolor)を含む春咲きのエビネを紹介しています。


エビネの花期は4月~5月。
花期になると、葉腋から花茎を伸ばし、花序に6~30個の花を咲かせます。
花茎は一つの株に1~2本、長さ18~30㎝。

▼エビネの花序

エビネの花序

花は直径2~5㎝、ラン科特有のラン形花冠です。
左右相称で、3個の萼片と3個の花弁から構成されています。

▼エビネの花の構造

エビネの花の構造

萼片は上部中央を背萼片、左右を側萼片と呼びます。
花弁は左右を側花弁、下部を唇弁(しんべん)と呼びます。

▼エビネの花の構造

エビネの花の構造

唇弁は3深裂しており、左右の裂片は中央よりやや大きくなります。
中央裂片は凹形で、縁は時に不規則に歯状になり、中央に3個の板状の突起が付いています。

▼エビネの唇弁

エビネの唇弁

唇弁の上にあるのは雄しべと雌しべが合着したもので、ずい柱(ちゅう)と呼ばれます。
ずい柱の先端には花粉の塊があり、葯帽(やくぼう)と呼ばれるふた状のケースが付いています。

柱頭は花粉塊の下にあります。

▼エビネのずい柱

エビネのずい柱と葯帽

唇弁の後ろは円筒状になって突き出しており、この部分は距(きょ)と呼ばれます。
距には蜜が入っています。

▼エビネの距

エビネの距

花色は、白、黄色、ピンク、赤、紫、緑、茶など多彩です。


果実は長さ3㎝、楕円形の蒴果です。

エビネの果実
Created by modifying "Calanthe discolor fruits" Alpsdake, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

葉は通常3枚が茎に付き、長さ13~25㎝、幅3~9㎝の長楕円形~倒卵状披針形です。
葉には葉脈が隆起した5本の脈があり、先は尖ります。

秋に翌年の新芽を出し、冬の間に少し成長して春に大きく展開します。
花茎が伸びる頃には、草丈30~50㎝に成長します。

葉は陰影が美しく、常緑で耐陰性もあるため、シェードガーデンによく植栽されます。

▼エビネの葉の様子

エビネの葉

繊細な性質の植物ですが、ラン科の中では育てやすい種類です。
環境さえ合えば、それほど手間はかかりません。
耐暑性、耐寒性は品種により異なりますが、あまり強い性質ではありません。

▼たくさんの花を咲かせるエビネ

エビネ

名前の由来

エビネの地下茎は、塊が数珠のように連なっており、それがエビのように反り返るユニーク形をしています。
このエビのような根の形状から「エビネ(海老根、蝦根)」の和名が付いています。

エビネの主な品種

エビネ(Calanthe discolor)

エビネ

日本、朝鮮半島、中国に分布するエビネの原種で、ジエビネとも呼ばれます。

花は紫褐色、唇弁は白色で、花序に6~10個の花が付きます。
草丈40~65㎝に成長します。

キエビネ(Calanthe striata)

キエビネ

日本、朝鮮半島、中国、台湾に分布するエビネの原種です。
日本では本州の紀伊半島以南、四国、九州に分布しています。

花は黄色で大きく、花序に6~13個の花が付きます。
草丈30~55㎝に成長します。

タカネエビネ(Calanthe discolor x C. striata)

タカネエビネ

エビネとキエビネの自然交雑種です。

他にも数多くの原種、園芸品種が流通します。
育てやすいのは、キエビネ、タカネエビネで、その他のエビネは繊細な性質で、栽培難易度はやや高めです。

エビネの育て方

エビネの育て方

栽培環境

自生のエビネは、木漏れ日が柔らかく差し込む林の中で生育しています。
強い日差しを浴びると葉焼けを起こします。

日陰から半日蔭の場所で育ちますが、完全な日陰だと花付きが悪くなります。
落葉樹の下やブロック塀の影などが適しています。
柔らかい土壌を好むので、庭植えの場合は腐葉土などをたっぷりと混ぜてふかふかの土を作って下さい。

心配な場合は鉢植えにして育てます。

冬越し、夏越し

冬越し

耐寒性は品種により異なりますが、あまり高い方ではありません。
霜に当たると葉が黒く枯れてしまいます。
鉢植えの場合は、霜の当たらない場所に移動して下さい。
庭植えの場合は霜よけを設置します。

氷点下になる日が多い寒冷地では、戸外での冬越しは困難です。
室内に取り込んで管理して下さい。

夏越し

高温多湿の環境が苦手です。
鉢植えなら出来るだけ涼しい場所に移動して下さい。
寒冷紗で遮光する場合は、夏場は60~70%の遮光率です。

水やり

乾燥に非常に弱い植物ですが、水をやりすぎると根腐れを起こします。

鉢植えの場合は、土の表面が乾きかけたらたっぷりと。
夏場は用土の上にミズゴケを敷き、水の蒸発を防ぐと効果的です。
冬場は水やりの回数を減らしますが、完全に乾燥させないようにして下さい。

庭植えの場合は、生育期間中に乾燥が続くようなら水やりをして下さい。

新芽が出ているようなら、上から水はかけないように注意します。
水が溜まり軟腐病の原因になります。

肥料

5月~6月中旬、9月中旬~10月の間に肥料を施します。
開花中、夏場、冬場には肥料を施す必要はありません。

規定量の2倍(4000倍)に薄めた液肥を、週に1回程度施します。
エビネは根が弱いので、強い肥料を与えると根が傷んでしまいます。
必ず規定量の2倍に薄めて下さい。

植え付け、植え替え

植え付け

通気性・排水性の良い土を好みます。

用土は人それぞれですが、筆者宅の例では…

鉢植え…赤玉土(硬質・小粒)4、鹿沼土(小粒)4、腐葉土2
庭植え…鉢植えの配合土に庭土を混ぜる

…という配合の土を使っています。

エビネは地下茎が球状に連なって成長します。
この球状の地下茎は毎年1つずつ、新芽の付いている方向に増えていきます。
植え付ける際は、新芽の付いている方向を広めにし、成長するスペースを確保して下さい。

植え替え

適期は開花前の3月、開花後、秋の9月です。

鉢植えの場合は2~3年に一度、庭植えの場合は4~5年に一度の植え替えを行います。
土を振って軽く落とし水洗いをします。
腐った根や腐りかけた根があれば、切り離して下さい。
株が混み合っていれば株分けをして、新しい用土で植え付けます。

庭植えの場合も土は作り直して、環境の良い状態を保てるようにします。
植え付けたらしっかりと水やりをし、肥料を与える場合は一週間程度、間をあけて下さい。

増やし方(株分け)

株分けが一般的です。
芽の付いていない球状の根(バルブ)からも増やすことが出来き、これをバックバルブふかしと言います。

株分け

新芽に古いバルブ(バックバルブ)が2~3個付いた状態で切り分けて、植え付けます。

バックバルブふかし

葉の付いていないバックバルブも、2~3個で切り離し、水苔に植えておけば新芽が出てきます。
バルブの頭が半分くらい出る程度の深さに植え、水を切らさないように管理して下さい。

病気・害虫

軟腐病

芽が腐って抜けたり、葉先が黒く腐ったりします。
発生した場合は、病変部分を取り除き、傷口に殺菌剤を塗布します。

ウイルス病

花弁に黒い斑点が出たり、葉の色がまだらになったりします。
発生すると治療の方法はありません。
他の株にも感染するため、用土と株は処分して下さい。
作業でハサミを使う場合は、1株ごとに消毒するか火であぶって殺菌することで、感染を予防できます。
この病気は、アブラムシを介して媒介するので、アブラムシが発生しないよう注意して下さい。

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