科名…シソ科
属名…アキギリ属
アキギリ属
サルビアの仲間であるアキギリ属の植物は、世界に約900~1100種が分布する巨大な植物群です。
分布域は熱帯から温帯にかけて広がっており、特に中央アメリカ~南アメリカに約500種、中央アジアおよび地中海地域に約250種、東アジアに約90種が分布しています。
日本にはアキノタムラソウ(Salvia japonica)やキバナアキギリ(S. nipponica)など、約10種が分布しています。
▼アキノタムラソウ
▼キバナアキギリ
アキギリ属の多くの種は一年草から二年草、または多年草ですが、一部の種が亜低木から低木となります。
葉は単葉から羽状複葉で、花序は主軸に花柄を持った花が並ぶ総状花序、対生する葉腋に花序が付く輪生花序、穂状花序の他、まれに単性の花を付ける種もあります。
花はシソ科の植物に多く見られる唇形花です。
唇形花とは、筒状に合着した花弁の先が上下2つに分かれている花のことで、この様子を口に見立て、上部を上唇(ジョウシン)、下部を下唇(カシン)と呼びます。
※一部、上唇が極端に小さい花や、明確に上下に分かれていない花もあります。
▼アキギリ属の唇形花(サルビア・ガラニチカ)
雄しべは2個、雌しべは1個で花柱が2裂します。
シソ科の多くの植物は4個の雄しべを持ちますが、アキギリ属は内2個が退化しています。
▼アキギリ属の雄しべと雌しべ(サルビア・ミクロフィラ ‘ホットリップス’)
※退化した雄しべの名残として、いくつかの種では不稔性の仮雄しべが見られます。
アキギリ属の受粉の仕組み
アキギリ属の受粉は、ハナバチやハチドリ、チョウによって媒介されます。
下の図は一般的な植物に見られる雄しべの構造です。
▼雄しべの構造
雄しべは、花粉を入れる袋状の葯(ヤク)と、それを支える花糸(カシ)から形成されています。
葯は2個の半葯(ハンヤク)からなり、半葯の間にある花糸(カシ)の延長部分を葯隔(ヤクカク)と呼びます。
次の図は、アキギリ属の植物の雄しべの構造です。
▼アキギリ属の植物の雄しべの構造
アキギリ属の雄しべでは、半葯(ハンヤク)を繋ぐ葯隔(ヤクカク)の部分が上下(または前後)に長く伸びており、それを花糸(カシ)が支える構造になっています。
※下側(または後ろ側)の半葯は多くの場合不稔性で花粉を放出しません。
これはアキギリ属の植物に見られる特徴的なレバー構造で、蜜を採りにきたチョウやハチなどの媒介者が片方の半葯を押すと、もう片方の半葯が動き、媒介者に花粉が付く仕組みとなっています。
▼アキギリ属の雄しべのレバー構造
アキギリ属の植物は通常、雄性先熟(ユウセイセンジュク)で、先に雄しべが成熟して花粉を出し、その後、雌しべが成熟します。
雌しべの成熟期(雌性期)では、雌しべが長く伸びて花弁から突出し、媒介者によって別の花から運ばれてきた花粉を効率的に受け取れる形になります。
アキギリ属の主な栽培品種(サルビアの仲間)
アキギリ属には美しい花を咲かせる種が数多くあることから、世界で広く栽培されています。
ここでは日本で栽培されている代表的なアキギリ属の植物を紹介しています。
サルビア・スプレンデンス
Salvia splendens
- 花期…6月~11月
- 花色…赤、ピンク、紫、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:10 to 11
サルビアの代名詞とも言える品種で、単に「サルビア」というと本種を指します。
ブラジル南東部原産の多年草で、世界中の熱帯から温帯地域で広く栽培されています。
※耐寒性が低いため、日本では一年草扱い
草丈25㎝~40㎝程度に成長します。
サルビア・ガラニチカ
Salvia guaranitica
- 花期…5月~11月
- 花色…青、紫
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:8 to 10
南アメリカ原産の多年草で、メドーセージと呼ばれることもあります。
深い青~紫色の花と、黒い萼のコントラストがシックで美しい人気品種です。
草丈60~150㎝に成長する大型の宿根草です。
チェリーセージ
Salvia microphylla、Salvia greggii
- 花期…5月~11月
- 花色…赤、赤白、ピンク、オレンジ、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:7 to 10
チェリーセージとして流通するのは、サルビア・ミクロフィラ、サルビア・グレッキーの2種とその交配種です。
いずれもアメリカ南部~メキシコに分布する多年草です。
サルビア・ミクロフィラの園芸品種であるホットリップス(写真上)が最も有名で人気があり、広く栽培されています。
草丈40~150㎝に成長します。
アメジストセージ(サルビア・レウカンサ)
Salvia leucantha
- 花期…8月~11月
- 花色…紫、白、ピンク
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:8 to 10
メキシコ~中央アメリカに分布する多年草で、メキシカンセージとも呼ばれます。
花と萼に細かな毛が密生しており、ビロードのような手触りです。
草丈60㎝~150㎝に成長する大型の宿根草です。
サルビア・ネモローサ
Salvia nemorosa
- 花期…5月~6月
- 花色…青紫、ピンク、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:4 to 8
ヨーロッパ中央部を中心にアジア中央部まで分布する多年草です。
栽培と繁殖が容易なことから、世界に広く普及しています。
草丈30~80㎝程度に成長します。
パイナップルセージ(サルビア・エレガンス)
Salvia elegans
- 花期…10月~11月
- 花色…赤
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:8 to 10
メキシコおよびグァテマラに分布する多年草です。
葉茎が傷つくとパイナップルのような甘い香りがするため、パイナップルセージと呼ばれています。
ハーブティーや料理の他、ポプリとしても利用されます。
草丈100~150㎝に成長します。
サルビア・コクシネア
Salvia coccinea
- 花期…5月~11月
- 花色…赤、ピンク、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:8 to 10
北アメリカ南東部から中央アメリカ、南アメリカ北西部に分布する多年草です。
※日本では一年草扱い
サルビア・スプレンデンスに次いで普及しているサルビアの一種で、ベニバナサルビアとも呼ばれます。
写真中央は、園芸品種のコーラルニンフ。
こぼれ種でも繁殖し、栽培は容易です。
草丈30~60㎝に成長します。
サルビア・プラテンシス
Salvia pratensis
- 花期…5月~7月
- 花色…青、紫、ピンク、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:4 to 8
ヨーロッパから西アジア、北アフリカに分布する多年草です。
やや高温多湿に弱い性質で、暖地では夏に株が弱ることもあります。
草丈20~60㎝に成長します。
ブルーサルビア
Salvia farinacea
- 花期…5月~10月
- 花色…青紫、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:8 to 10
アメリカ南部原産の多年草です。
耐寒性が低いため、日本では一年草扱いにするのが一般的です。
美しい青花が魅力的ですが、高温多湿の環境にやや弱い性質です。
草丈30~60㎝程度に成長します。
ペインテッドセージ
Salvia viridis
- 花期…5月~7月
- 花色…紫、ピンク、白
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:Not Applicable
北アフリカ、ヨーロッパ、西アジアに分布する一年草です。
花は小さく目立ちませんが、色付く苞が非常に美しく特徴的です。
高温多湿の環境が苦手なため、暖地では梅雨の時期に枯れてしまうこともあります。
草丈30~60㎝に成長します。
コモンセージ
Salvia officinalis
- 花期…5月~6月
- 花色…紫、白、青、ピンク
- 難易度…
- USDA Hardiness Zone:4 to 8
地中海沿岸地域原産の常緑多年草です。
料理に使用されるスパイスのセージは、コモンセージの葉を乾燥させたもので、ヨーロッパでは何世紀にも渡って栽培されているハーブです。
草丈60~80㎝程度に成長します。
美しい花と葉を持ちますが、高温多湿の環境が非常に苦手なため、暖地、温暖地ではなかなかうまく育ちません。